東京地方裁判所 平成9年(ワ)2928号 判決 2000年12月26日
原告
株式会社新亞スポーツ
右代表者代表理事
【A】
右訴訟代理人弁護士
近藤誠
同
近藤博
右補佐人弁理士
伊藤捷雄
被告
ダイワ精工株式会社
右代表者代表取締役
【B】
右訴訟代理人弁護士
山根祥利
同
原山邦章
同
近藤健太
右訴訟復代理人弁護士
勝田裕子
同
的場美友紀
右補佐人弁理士
鈴江武彦
同
中村誠
同
蔵田昌俊
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告の取引先に対し、原告がその取引先に提供している別紙物件目録記載の魚釣用リールが別紙実用新案権目録記載の実用新案の権利範囲に属する旨の陳述をしたり、その旨を流布したりしてはならない。
二 被告は、原告に対し、金六一五万四四〇〇円及びこれに対する平成九年三月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実等
1 原告と被告は、いずれも釣具の製造販売をしている会社である。
2 被告は、別紙実用新案権目録記載の実用新案権を有している(以下、右目録記載(1)の実用新案権を「本件実用新案権(1)」、その考案を「本件考案(1)」といい、本件実用新案権(1)に係る明細書(甲二)を、「本件明細書(1)」という。また、右目録記載(2)の実用新案権を「本件実用新案権(2)」、その考案を「本件考案(2)」といい、本件実用新案権(2)に係る明細書(甲四)を、「本件明細書(2)」という。)。
3(一) 本件考案(1)の構成要件は、次のとおり分説される。
A① 複数の支柱を介して一体形成された左右側枠と、
② 左右側枠の外側にそれぞれ装着されるハンドル側外側板および反ハンドル側外側板と、
③ ハンドル側外側板および反ハンドル側外側板間に収容されるスプールと、
④ ハンドル側外側板および反ハンドル側外側板間に橋設される指掛部を有する
⑤ 魚釣用両軸受型リールにおいて、
B 前記指掛部が、前記反ハンドル側外側板と段差のないように前記ハンドル側外側板に向け一体成形され、
C 前記指掛部が、前記スプールの上側でかつ該スプールの軸芯より前側に位置する前記支柱の上部に当接可能に支持されていることを特徴とする魚釣用両軸受型リール
(二) 本件考案(2)の構成要件は、次のとおり分説される。
A① 本体フレームと、
② この本体フレームの両支持板間にスプール軸を介して回転可能に支承したスプールと、
③ このスプールにピニオン及びドライブギアを介してハンドル軸からの回転を伝達するようにした
④ 両軸受型の魚釣用リールに於て、
B 上記ハンドル軸の一端部をスプール側の支持板外側に露出しないように該支持板の内側で回転可能に支持すると共に、上記ハンドル軸の他端部側を支持板に取り付けられる外側板に支持し、
C 上記ハンドル軸の支持板側端部外周に係止部を形成し、
D この係止部と係合してハンドル軸の軸方向の動きを規制する抜止部材を上記支持板の内側に固定したこと
を特徴とする魚釣用リール。
4 原告は、別紙物件目録記載の魚釣用リール(以下、「イ号物件」などといい、まとめて、「原告物件」という。)を、日本の取引先に供給していた。
5 被告は、平成八年七月から一一月にかけて、原告が原告物件を供給している日本国内の取引先に対し、イ号物件及びハ号物件が本件考案(1)の技術的範囲に属する旨並びに原告物件が本件考案(2)の技術的範囲に属する旨記載した通知書を送付し、原告物件の販売の中止を求めた(以下「本件警告」という。)。
6(一) イ号物件及びハ号物件は、本件考案(1)の構成要件A①、②及び④を充足する。
(二) 原告物件は、本件考案(2)の構成要件A①、③及び④、構成要件B並びに構成要件Dを充足する。
二 本件は、原告が、被告に対し、「原告物件は本件各考案の技術的範囲に属しないから、本件警告は、不正競争防止法二条一項一三号に定める不正競争行為に当たる。」と主張して、同法に基づき、原告物件が本件各考案の技術的範囲に属する旨の陳述、流布の禁止並びに本件警告による損害の賠償を求める事案である。
第三争点及びこれに関する当事者の主張
一 争点
1 イ号物件及びハ号物件が本件考案(1)の構成要件A③を充足するか
2 イ号物件及びハ号物件が本件考案(1)の構成要件A⑤を充足するか
3 イ号物件及びハ号物件が本件考案(1)の構成要件Bを充足するか
4 イ号物件及びハ号物件が本件考案(1)の構成要件Cを充足するか
5 本件考案(1)の有効性
6 原告物件が本件考案(2)の構成要件A②を充足するか
7 原告物件が本件考案(2)の構成要件Cを充足するか
8 本件考案(2)の有効性
9 本件警告が、不正競争防止法二条一項一三号の「告知」に当たるか
10 被告の過失の有無
11 損害の発生及び額
二 争点に対する当事者の主張
1 争点1について
(被告の主張)
本件考案(1)の構成要件A③の「収容」とは、「配置」の意味である。
イ号物件及びハ号物件のスプール5は、右側の側枠1aの軸受部材と反ハンドル側外側板4の軸受部材9との間に取り付けられているところ、右側の側枠1aの軸受部材の外側にはハンドル側外側板3が装着されているから、スプール5は、ハンドル側外側板3と反ハンドル側外側板4の間に配置すなわち「収容」されている。
したがって、右各物件は、右構成要件を充足する。
(原告の主張)
(一) イ号物件及びハ号物件のスプール5は、ハンドル側外側板3と反ハンドル側外側板4との間ではなく、右側の側枠1aと反ハンドル側外側板4との間に収容されているから、右構成要件を充足しない。
(二) スプール当たり発生を防止し、フレームの強度を維持するという右考案の効果に照らすと、構成要件の「スプール」とは、そのフランジ部を左右の側枠に設けた貫通孔を微小隙間を空けて貫通し、ハンドル側外側板と反ハンドル側外側板に軸承されているものと解すべきである。
イ号物件及びハ号物件は、スプール5のフランジ部と微小隙間をあけて貫通させる貫通孔が左側枠1bにのみ設けられているから、右構成要件を充足しない。
(三) 右考案は、後記5のとおり、無効理由があるから、その技術的範囲は本件明細書(1)に記載された実施例に限定して解釈されるべきであるが、イ号物件及びハ号物件は、右(一)及び(二)の点で右実施例と異なるから、右構成要件を充足しない。
2 争点2について
(被告の主張)
イ号物件及びハ号物件は、本件考案(1)の構成要件A⑤の「リール」に当たる。
(原告の主張)
イ号物件及びハ号物件は、左右の側枠に支柱を貫通させた取付ビスで、ハンドル側外側板3と反ハンドル側外側板4を取り付けているから、リールに外圧や外力が加わった場合に変形することがない。スプール当たり発生を防止し、フレームの強度を維持するという本件考案(1)の効果に照らすと、右構成要件の「リール」には、右のイ号物件及びハ号物件のようなものを含まないと解すべきである。
3 争点3について
(被告の主張)
本件考案(1)の構成要件Bの「段差のない」とは、指掛部と反ハンドル側外側板との間に段差がないことであるところ、イ号物件及びハ号物件の指掛部付きカバー29は、反ハンドル側外側板4の上縁の前部側よりハンドル側外側板3に向けて一体に成形され、反ハンドル側外側板4との間に段差がない。
イ号物件の凹部29a及び29b、ハ号物件の凹部29aは、指掛部内における構成であるし、また、リールの握持保持性の向上を図るという右考案の効果に何ら影響を及ぼさないから、「段差」に当たらない。
また、「指掛部」を、後記原告主張のとおり「前側支柱の上部のみを覆うもの」と限定して解すべき理由はないし、イ号物件及びハ号物件において、左右側枠の上部から前面部までを覆うものすべてが指掛部ではない。
したがって、右各物件は、右構成要件を充足する。
(原告の主張)
(一) 反ハンドル側外側板と指掛部との間に段差が形成されない技術は、本件実用新案(1)の出願時には周知であったから、「段差のない」の意義を、被告主張のように解することはできない。
イ号物件及びハ号物件は、リールを握持した際に親指の当たる部分に、イ号物件については凹部29a及び29b、ハ号物件については凹部29aによって形成された段差があることから、リールを長時間握持すると親指に痛みを感じることになり、リールの握持保持性の向上を図るという本件考案(1)の効果を達成できない。
したがって、右各物件は、「段差のない」を充足しない。
(二) 右考案については、後記5のとおり、無効理由があるから、その技術的範囲は本件明細書(1)に記載された実施例に限定して解釈されるべきであるが、イ号物件及びハ号物件は、リールを握持した際に親指の当たる部分に、イ号物件については凹部29a及び29b、ハ号物件については凹部29aによって形成された段差がある点で、右実施例と異なる。
(三) 右明細書において、従来技術として、指掛部が、スプールの上側でかつ該スプールの軸芯より前側に位置する支柱(以下「前側支柱」という。)の上部のみを覆うものが挙げられ、右考案はこのような従来技術の問題点を解決することを目的としていること、右考案は、出願過程において、指掛部付きカバーが左右側枠の上部から前面部までを覆うものが意識的に排除されたことからすると、右構成要件の「指掛部」とは、前側支柱の上部のみを覆うものを指すと解すべきである。
イ号物件及びハ号物件の指掛部付きカバー29は、左右側枠の上部から前面部までを覆うものであるから、右構成要件を充足しない。
4 争点4について
(被告の主張)
本件考案(1)の構成要件Cの目的は、落下等による通常の操作以外の外力が直接前側支柱に加わることを指掛部によって防ぎ、右支柱上部を保護、補強するというものであり、指掛部と右支柱上部を当接可能にしたのは、通常の操作時に加わる力を指掛部のみでなく、右支柱によっても支える構成としたものである。したがって、右構成要件の「当接可能」には、指掛部と右支柱上部が常に当接するという意味のみならず、通常の操作時に加わる力によって両者が当接するという意味も含まれる。
イ号物件及びハ号物件の指掛部付きカバー29は、スプール5の上側でかつ右スプールの軸芯より前側に位置する支柱1dの上部に支持され、また、指掛部付きカバー29のうち、通常の魚釣操作時においてリールを握持した手の親指が当たる部分は、取込操作等の際に加えられる通常の圧力によって、支柱1dの方向に湾曲してその上部に当接する。
したがって、右各物件は、右構成要件を充足する。
(原告の主張)
(一) 本件考案(1)は、指掛部と前側支柱が一体となることで、両者の剛性が重なり合わさって強度が生まれ、左右側枠の変形を防止し、左右側枠に対するスプールのスプール当たりを防止するようにしたものである。
また、本件明細書(1)の考案の詳細な説明や右考案に係る図面において、指掛部と前側支柱との間に間隙のあるものは、開示も示唆もされていない。
そうすると、「当接可能」とは、指掛部と前側支柱が常態において当接しているという意味に解すべきである。
これに対し、イ号物件及びハ号物件の指掛部付きカバー29は、親指を載置する部分が常態において支柱1dに当接していないから、「当接可能」を充足しない。
(二) 右考案は、後記5のとおり、無効理由があるから、その技術的範囲は本件明細書(1)に記載された実施例に限定して解釈されるべきであるが、イ号物件及びハ号物件は、指掛部付きカバー29と支柱1dとの間に間隙がある点で、右実施例と異なるから、右構成要件を充足しない。
(三) 前側支柱を指掛部で補強してリールに外圧が加わった際のリールの歪みを防止するには、指掛部の自由端側が右側枠又はハンドル側外側板と係合していることが必要であるから、構成要件の「支持する」とは、指掛部の自由端側が右側枠又はハンドル側外側板と係合していることを含むというべきである。しかるに、イ号物件は、指掛部付きカバー29の自由端側を右側枠1aの縁部より突設した突起1h及び1i上に単に載置させただけであるから、「支持する」を充足しない。
5 争点5について
(原告の主張)
(一)(1) 本件考案(1)は、その出願前頒布されたカタログ(甲一五の一)に記載された「BRUSH BUSTER」と実質的に同一であるか、又は、これにより当業者が極めて容易に創作できたものであるから、右考案に係る実用新案登録は無効である。
(2) 右考案は、その出願前頒布されたカタログ(甲一五の一)に記載された「BANTAM MAG PLUS」により当業者が極めて容易に創作できたものであるから、右考案に係る実用新案登録は無効である。
(3) 右考案は、右(1)、(2)の公知文献、実願昭五六ー一四二四三七号(実開昭五八ー五二九六五号)のマイクロフィルム(甲一六)、実願昭五八ー四七四二〇号(実開昭五九ー一五四〇五六号)のマイクロフィルム(甲一七)、実願昭五八ー一四七一八四号(実開昭六〇ー五五三六九号)のマイクロフィルム(甲一八)に記載された各考案により、当業者が極めて容易に創作できたものであるから、右考案に係る実用新案登録は無効である。
(二) 右考案の構成要件A①は、支柱と左右の側枠が一体成形されているという意味に解すべきであるが、右要件は、手続補正書によって追加されたものであって、出願当初の明細書、図面には記載されておらず、かつ、右明細書等からは自明でない事項であるから、右記載の付加は、要旨の変更に当たる。
したがって、右考案の出願日は、右手続補正書を提出した平成三年四月一六日になるところ、右考案は、その前に原告が出願して公開された考案と同一であるから、右考案に係る実用新案登録は無効である。
(被告の主張)
(一) 原告の右(一)の主張は争う。
(二) 右考案の「複数の支柱を介して一体形成された左右側枠」とは、左右の側枠が支柱を介在して不分離状に一体に形作られているという意味であり、出願当初の明細書、図面に開示された内容を表現したにすぎないから、右要件の追加は、要旨の変更に該当しない。
6 争点6について
(被告の主張)
本件考案(2)の構成要件A②の「両支持板間に」とは、スプールが左右の支持板の「間に」位置するようにスプール軸を介して回転可能に支承されるという意味である。
原告物件のスプール5は、左右の支持板1a及び1bの間にあり、右側の支持板1aの軸受部材と反ハンドル側外側板4に取り付けられた軸受部材9との間にスプール軸7を介して回転可能に取り付けられているから、原告物件は、右構成要件を充足する。
(原告の主張)
(一) 本件明細書(2)に記載された実施例及び本件考案(2)に係る図面によると、スプールは、両支持板に軸受部材を介して回転可能に枢支したスプール軸に固着されており、これ以外の技術の開示ないし示唆はない。
したがって、「両支持板間に」とは、「両支持板に軸受部材を介して」という意味に解すべきである。
しかるに、原告物件は、スプール5を固着したスプール軸7の一端が反ハンドル側外側板4に軸受部材9を介して枢支されているから、「両支持板間に」を充足しない。
(二) 右考案については、後記8のとおり、無効理由があるから、その技術的範囲は本件明細書(2)に記載された実施例に限定して解釈されるべきであるが、原告物件は、スプール5を固着したスプール軸7の一端が反ハンドル側外側板4に軸受部材9を介して枢支されている点で、右実施例と異なる。
7 争点7について
(被告の主張)
原告物件のEリング22は、ハンドル軸11の支持板1a側に設けた周溝11aに装着されており、係止部を形成するから、本件考案(2)の構成要件Cを充足する。
(原告の主張)
(一) 本件明細書(2)に記載された実施例によると、右構成要件の「係止部」とは、ハンドル軸自身に形成させたリング状の溝あるいは鍔部であると認められる。
原告物件は、ハンドル軸11に形成させた周溝11aにEリング22を着脱可能に嵌着したものであって、ハンドル軸自身に抜止部材と係合するリング状の溝あるいは鍔部を形成させたものではないから、「係止部」を充足しない。
(二) 本件考案(2)については、後記8のとおり、無効理由があるから、その技術的範囲は本件明細書(2)に記載された実施例に限定して解釈されるべきであるが、原告物件は、係止部がEリング22である点で、右実施例と異なる。
8 争点8について
(原告の主張)
(一) 本件考案(2)は、実願昭五八ー一三五七二〇号(実開昭六〇ー四四五七五号)のマイクロフィルム(甲三二)に記載された考案と同一であるから、右考案に係る実用新案登録は無効である。
(二) 右考案は、特公昭五〇ー五九二号公報(甲七)、実願昭五九ー一九五七一号(実開昭六〇ー一三一一六七号のマイクロフィルム(甲三三)、特公昭五八ー五一二六号公報(甲三四)に記載された技術を組み合わせることによって当業者が極めて容易に創作できたものであるから、右考案に係る実用新案登録は無効である。
(三) 右考案は、右(一)、(二)記載の各公報に記載された技術を組み合わせることによって当業者が極めて容易に創作できたものであるから右考案に係る実用新案登録は無効である。
(被告の主張)
原告の右主張は争う。
9 争点9について
(原告の主張)
原告とその取引先との契約は、取引先からの発注に基づき、原告が自ら定めた規格により製造した原告物件を取引先に供給するというものである。また、原告は、原告物件のうちハ号物件及びニ号物件については、原告のブランド名で取引先に供給している。
したがって、原告の取引先に対してされた本件警告は、第三者に対する「告知」に当たり、原告の営業上の信用を害するものである。
(被告の主張)
不正競争防止法二条一項一三号の「告知」には、侵害行為者に対する警告は含まれないところ、原告の取引先は、侵害行為者である。
本件警告の対象となった製品は、いずれも原告がその取引先にOEM契約に基づき供給しているものであって、当該取引先の製品であるから、本件警告によって、原告の信用が害されることはない。
10 争点10について
(原告の主張)
原告は、被告に対し、平成八年一〇月一四日付け書面により、原告物件のうち少なくともイ号物件については、本件各考案の技術的範囲に属していないことを告げ、原告の取引先に警告書等を送付しないように要請した。
したがって、被告には、少なくとも、不正競争行為について過失が認められる。
(被告の主張)
原告の右主張は争う。
11 争点11について
(原告の主張)
原告は、本件警告がなされた後、取引先より原告物件の出荷を止められるなどして、平成八年七月以降、売上げを大幅に減少させたが、原告の平成九年三月末日までの売上減少額は六一五四万四〇〇〇円である。原告の利益率は一〇パーセントであるので、原告は、右売上減少額に利益率を乗じた六一五万四四〇〇円の損害を被った。
(被告の主張)
原告の右主張は争う。
第四当裁判所の判断
一 争点4について
1(一) 本件考案(1)は、「前記指掛部が、前記反ハンドル側外側板と段差のないように前記ハンドル側外側板に向け一体成形され」という構成を有する(構成要件B)。
(二) カタログ(甲一五の一)に記載された「BRUSH BUSTER」において、指掛部は、ハンドル側外側板と一体成形されているが、反ハンドル側外側板との間には、略三角形の隙間が形成されていることが認められるから、この製品は、右考案の右構成を有するものではない。したがって、右考案は、カタログ(甲一五の一)に記載された「BRUSH BUSTER」と同一であるとは認められない。また、右考案は、右カタログに記載された右製品により当業者が極めて容易に考案できたものであることが明らかであるとも認められない。
(三) カタログ(甲一五の一)に記載された「BANTAM MAG PLUS」において、指掛部が、反ハンドル側外側板と段差がないように一体成形されているとは認められないから、本件考案(1)の右(一)記載の構成を有するものではなく、右考案は、右製品より当業者が極めて容易に創作できたものであることが明らかであるとは認められない。
(四) 実願昭五六ー一四二四三七号(実開昭五八ー五二九六五号)のマイクロフィルム(甲一六)記載の考案は、反ハンドル側外側板と指掛部が別の部材で形成されているので、本件考案(1)とは構成を異にしている。また、実願昭五八ー四七四二〇号(実開昭五九ー一五四〇五六号)のマイクロフィルム(甲一七)、実願昭五八ー一四七一八四号(実開昭六〇ー五五三六九号)のマイクロフィルム(甲一八)に記載された各考案において、指掛部が、反ハンドル側外側板と段差がないように一体成形されているとは認められない。これらの考案に右(二)(三)の各製品を総合しても、本件考案(1)は、当業者が極めて容易に考案できたものであることが明らかであるとは認められない。
2 証拠(甲二、三七、四〇)によると、本件考案(1)の構成要件A①は、右考案の出願過程に手続補正書によって追加されたことが認められる。原告は、右構成要件を、支柱と左右の側枠が一体成形されているという意味に解し、右要件の追加が明細書又は図面の要旨の変更に当たると主張するが、右考案に係る図面及び右図面についての本件明細書(1)の記載(甲二)や、右構成要件が「一体成形」ではなく、「一体形成」との文言を用いていることからすると、右構成要件は、支柱と左右の側枠が不分離状に一体的に形成されていることを意味するものと認められる。そして、証拠(甲三七)によると、このような構成は、出願当時の明細書、図面に開示されていることが認められるから、右要件の追加が要旨の変更に当たるとは認められない。
3 以上によると、本件考案(1)に係る実用新案登録が無効であることが明らかであるとは認められない。
4 原告は、右考案については、無効理由があるから、その技術的範囲は本件明細書(1)に記載された実施例に限定して解釈されるべきであると主張するが、右1のとおり、右考案に係る実用新案登録が無効であるとは認められないから、右主張は採用できない。
二 争点1について
1 イ号物件及びハ号物件のスプール5は、ハンドル側外側板3と反ハンドル側外側板4の間に配置されているので、本件考案(1)の構成要件A③「ハンドル側外側板および反ハンドル側外側板間に収容されているスプール」を充足する。
2 証拠(甲二)によると、本件明細書(1)の「考案の効果」の欄に、「本考案では、反ハンドル側外側板と一体成形された指掛部で支柱上部を保護、補強できるので、他物が当たったり、落下したり、外圧が加わったり等の外力が加わっても、スプールフランジの外周と複数の支柱で一体形成された側枠内周との微少隙間を維持し、スプール当たり発生を防止することができる。」との記載があることが認められる。原告は、本件考案(1)が右効果を奏する前提として、「スプール」は、そのフランジ部を左右の側枠に設けた貫通孔を微小隙間を空けて貫通し、ハンドル側外側板と反ハンドル側外側板に軸承されているものと解すべきであるところ、イ号物件及びハ号物件は、このような構成を有しないと主張する。しかしながら、右考案の実用新案登録請求の範囲の記載においてこのような限定はない。また、右の効果の記載においても「側枠内周」が貫通孔の内周のみを意味しているとは認められないところ、イ号物件及びハ号物件においては、別紙争点1図面(別紙イ号図面及びハ号図面の各図4)の赤色で塗った部分が支柱及び右側側枠と一体形成されており、スプールフランジの外周との間に微少隙間が存するから、スプール当たりの発生を防止するという右効果が生じないとはいえない。したがって、原告の右主張は採用できない。
三 争点2について
1 イ号物件及びハ号物件は、魚釣用両軸受リールであるから、これらの各物件は、本件考案(1)の構成要件A⑤を充足する。
2 原告は、スプール当たり発生を防止し、フレームの強度を維持するという右考案の効果に照らすと、右考案のリールには、イ号物件及びハ号物件のような、左右の側枠に支柱を貫通させた取付ビスで、ハンドル側外側板と反ハンドル側外側板を取り付けたものを含まないと主張する。
しかしながら、右考案の実用新案登録請求の範囲の記載においてこのような限定はない上、左右の側枠に支柱を貫通させた取付ビスで、ハンドル側外側板と反ハンドル側外側板を取り付けていたリールは、外圧や外力が加わった場合に変形することがないから、スプール当たり発生を防止し、フレームの強度を維持するという右考案の効果を奏することがないとも認められない。したがって、原告の右主張は採用できない。
四 争点3について
1 証拠(甲二)によると、本件明細書(1)に、魚釣用リールの従来技術の問題点として、指掛部が単品であるため、親指の当接部である反ハンドル側外側板と指掛部との間に段差や間隙が形成され、長時間握持していると親指が痛くなる点が挙げられ、右問題を解決するために、本件考案(1)の構成要件Bの構成が採用されたことが認められる。
以上の事実及び右構成要件の文言によると、右構成要件は、反ハンドル側外側板と指掛部との間に段差がないようにハンドル側外側板に向けて一体に成形したことを意味するものと解するのが相当である。
当事者間に争いがないイ号物件及びハ号物件の構成に証拠(検甲一)と弁論の全趣旨を総合すると、右の各物件においては、反ハンドル側外側板4と指掛部付きカバー29との間に段をなす部分がなく、指掛部付きカバー29は、反ハンドル側外側板4の上縁の前部側よりハンドル側外側板3に向けて一体成形されていることが認められるから、右の各物件は、右考案の右構成要件を充足する。
2 原告は、反ハンドル側外側板と指掛部との間に段差が形成されない技術は、本件考案(1)の出願時には周知であったことを理由に、「段差のない」を右のように解することができないと主張するが、前記一1(四)のとおり、実願昭五六ー一四二四三七号(実開昭五八ー五二九六五号)のマイクロフィルム(甲一六)記載の考案は、反ハンドル側外側板と指掛部が別の部材で形成されており、本件考案(1)とは構成を異にしているから、右考案の右構成要件を右のとおり解することの妨げになるものではなく、その他、右考案の構成要件Bを右のとおり解することの妨げになるべき事情は認められない。
また、原告は、右各物件の凹部29a及びイ号物件の29bが「段差」に当たると主張するが、右各部分は、反ハンドル側外側板4と指掛部付きカバー29との間にあるものではないから、右主張は採用できない。
さらに、原告は、右考案の「指掛部」は、前側支柱のみを覆うものに限られると主張するが、右考案の実用新案登録請求の範囲においてこのような限定はないこと、指掛部がリールの上部から前面部までを覆うものであっても右考案の作用効果に差異が生じるとは認められないこと、被告が右考案の出願過程において提出した意見書(甲四二)によっても、右のような指掛部を意識的に排除したとは認められず、その他、被告が右考案の出願過程において右のような指掛部を意識的に排除したことを認めるに足りる証拠はないことからすると、右主張は採用することができない。
五 争点4について
1 本件考案(1)の構成要件Cの「当接可能」という文言及び指掛部が前側支柱に常に当接していなくても、前記二2で認定したフレーム強度の維持という効果を奏することからすると、右「当接可能」は、指掛部と前側支柱が常に当接しているという意味に解すべきではなく、指掛部と前側支柱が当接し得るものであれば足りるというべきである。
証拠(乙三、検甲一)と弁論の全趣旨によると、イ号物件及びハ号物件は、外力が加わると、指掛部付きカバー29の親指がかかる部分が撓んで支柱1dに当接し得ることが認められるから、いずれの物件も、「当接可能」を充足すると認められる。
そうすると、イ号物件及びハ号物件は、指掛部が、スプールの上側でかつ該スプールの軸芯より前側に位置する支柱の上部に当接可能に支持されているということができるから、右構成要件を充足する。
2 原告は、フレーム強度の維持という右考案の効果に照らすと、右構成要件の「支持する」とは、指掛部の自由端側が右側枠又はハンドル側外側板と係合していることをいうが、イ号物件はこのような構成ではないから「支持する」を充足しないと主張する。しかし、右考案の実用新案登録請求の範囲の記載にこのような限定はない上、証拠(検甲一)と弁論の全趣旨によると、イ号物件の指掛部付きカバー29は、反ハンドル側外側板4と一体に形成され、その自由端側が右側枠1aの上端縁より突出させた突起1h、1iに載置されていることによって、外力が加わった際に、支柱1dの上部を保護、補強し得るので、フレーム強度が維持されると認められるから、原告の右主張は採用できない。
六 争点8について
1 本件考案(2)は、「ハンドル軸の支持板側端部外周に係止部を形成し、この係止部と係合してハンドル軸の軸方向の動きを規制する抜止部材を支持板の内側に固定した」という構成を有する(構成要件C、D)。
実願昭五八ー一三五七二〇号(実開昭六〇ー四四五七五号)のマイクロフィルム(甲三二)に記載された考案において、ハンドル軸11が内側板32にどのように支持されているかについては、右公報の明細書中に記載はなく、同公報の第5図及び第6図の図面からも必ずしも明らかではないから、同考案においてハンドル軸11が内側板32に支持されている構成が本件考案(2)の右構成と同一かどうかは必ずしも明らかでないのみならず、同考案の内側板32が、本件考案(2)の抜止部材と同一のものであるとも認められない。
なお、原告は、本件明細書(2)に、「支持板1aを本体フレーム1と別体に構成して支持板1aにハンドル軸11を抜止め支持するように構成しても良い。」(6欄一六ないし一九行)という記載があることを根拠として、抜止部材と支持板とは同等の部材であると主張するが、右明細書の記載は、本体フレームと支持板を別の部材とすることができることを述べているのみであって、抜止部材と支持板とが同等の部材であるという趣旨に解することはできないから、原告の右主張は採用できない。
したがって、本件考案(2)が実願昭五八ー一三五七二〇号(実開昭六〇ー四四五七五号)のマイクロフィルム(甲三二)に記載された考案と同一であるとは認められない。
2 本件考案(2)の構成のうち、「ハンドル軸の支持板側端部外周に係止部を形成し、この係止部と係合してハンドル軸の軸方向の動きを規制する抜止部材を支持板の内側に固定した」という構成(構成要件C、D)は、特公昭五〇ー五九二号公報(甲七)に記載された発明に含まれておらず、「ハンドル軸の一端部をスプール側の支持板外側に露出しないように」という構成(構成要件B)や「この係止部と係合してハンドル軸の軸方向の動きを規制する抜止部材を支持板の内側に固定した」という構成(構成要件D)は、実願昭五九ー一九五七一号(実開昭六〇ー一三一一六七号のマイクロフィルム(甲三三)、特公昭五八ー五一二六号公報(甲三四)に記載された技術には含まれていないのであって、本件考案(2)は、これらの技術を組み合わせることによって当業者が極めて容易に考案できたものであることやこれらの技術に実願昭五八ー一三五七二〇号(実開昭六〇ー四四五七五号)のマイクロフィルム(甲三二)に記載された技術を組み合わせることによって当業者が極めて容易に考案できたものであることが明らかであるとは認められない。
3 したがって、本件考案(2)に係る実用新案登録が無効であることが明らかであるとは認められない。
4 原告は、本件考案(2)については、無効理由があるから、その技術的範囲は本件明細書(2)に記載された実施例に限定して解釈されるべきであると主張するが、右1ないし3のとおり、右考案に係る実用新案登録が無効であるとは認められないから、右主張は採用できない。
七 争点6について
1 原告は、本件考案(2)の構成要件A②について、スプール軸の軸受が両支持板に設けられているものに限定すべきであると主張するが、右考案の実用新案登録請求の範囲の記載にこのような限定はない上、軸受が支持板に設けられるか外側板に設けられるかによって右考案の作用効果に差異が生じるとも認められないから、原告の右主張は採用できず、右要件の「両支持板間に」とは、スプールが両支持板の間に位置するとの意味であると認められる。
2 原告物件のスプール5は、左右の支持板1a及び1bの間にあり、右側の支持板1aの軸受部材と反ハンドル側外側板4に取り付けられた軸受部材9との間にスプール軸7を介して回転可能に取り付けられているから、右物件は、右構成要件を充足する。
八 争点7について
1 原告は、本件考案(2)の構成要件Cの「係止部」を、本件明細書(2)に記載された実施例のものに限定すべきであると主張するが、右考案の実用新案登録請求の範囲の記載にこのような限定はない上、証拠(甲四)によると、右明細書において、「係止部は、上記実施例のような溝15及び鍔部22に限定されないことは勿論である」(6欄一二ないし一四行)との記載があることが認められるから、原告の右主張は採用することができない。
2 原告物件においては、ハンドル軸11の支持板1a側の端部に設けた周溝11aにEリング22が嵌着されているから、右物件は、ハンドル軸の支持板側端部外周に係止部を形成したものと認められる。したがって、右物件は、右構成要件を充足する。
九 以上によると、イ号物件及びハ号物件は、いずれも本件考案(1)の技術的範囲に属し、また、原告物件は、いずれも本件考案(2)の技術的範囲に属することが認められる。
そうすると、本件警告が、不正競争防止法二条一項一三号に定める不正競争行為に該当するとは認められない。
十 よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 岡口基一 裁判官 男澤聡子)
<以下省略>